9月度のコラムを担当させて頂きます近藤です。宜しくお願いします。
冒頭からいきなり堅苦しい物言いで恐縮ですが、剣道を学ぶことにより日本人らしい心、行動(礼節を尊ぶ、社会の調和を重んじる、勤勉など)を身につけることは最重要なテーマだと思います。一方で剣道には社会人になった時に役に立つ実用的な側面もあるのではないか、逆に社会人として学んだ勘どころは剣道にも活かせるのではないかと思っています。今回は特に後者を中心にお話したいと思います。少々長いですがお付き合い下さい。
私は徳島市に隣接する藍住町という所の出身です。小さい頃から絵を描くのが好きで、小学校高学年の頃はスーパーカーにどっぷりはまり、プラモデルを作ってはあちこちいじり回していました。図画工作だけはいつも通信簿5、他人と同じ事をするのは嫌いで、熱しやすく冷めやすいという典型的なB型人間です。
剣道を始めたのは中学生になって何か部活に入らねばならないとなってからです。友達が野球部やサッカー部を選ぶ中、創部2年目の剣道部に私は興味を持ちました。先ず防具を着けた姿がカッコ良く見え、何でも形から入る私には大変魅力的に映りました。また出来て2年目で、ややこしい上下関係が無さそうだったのもポイントです。
こんな適当な理由で入部しましたが、最初の頃は遮二無二頑張り、素人集団の中では上達が早かった方だと思います。ところが入部して一年半が経つ頃から次第にサボり勝ちになり、気が付くと半ば幽霊部員のようになっていました。当時これといった明確な目的もなく始めた剣道ですが、言われたことを機械的にやり続けることに興味が失せてしまったのが原因だと思います。このまま剣道をやってどうなるのか将来の展望が開けない、と中学生ながらに思っていました。
高校生になると俄然バイクに興味を持つようになりました。エンジンむき出しのメカメカしさあふれるバイクに私は目を輝かせ、机のイスから尻を半分ずり落としてはレーシングライダーよろしくハングオンの練習をしていました。将来はバイクメーカか自動車メーカで設計をやりたいと真剣に思い(親は反対していましたが・・・)、そのためにひたすら勉強に励みました。
その後運良く希望の大学に入学し、卒業後は広島の個性派自動車メーカに就職しました。9年ほど経った頃、故あって現在の勤め先である自動車部品メーカに転職し、今に至っています。転職後数年は大して面白くもない仕事をしぶしぶこなしていましたが、ある時エンジンを制御するシステム製品の次期型モデルを開発するという花形の仕事が回ってきました。
前置きが長かったですが、ここからが本題です。自動車部品の開発がどういう仕事かご存じない方も多いと思いますので、少し詳しく説明させて頂きます。新しい製品を開発するに当たっては、自分の勝手な思いつきでいきなり設計を始めるのではなく、先ずお客さんのニーズや競合他社の動向を調査し、どういう性能、信頼性、コストの製品を、どのタイミングで市場に導入すれば所期の目的が達成できるか、製品企画を練り上げます。先ずここの読みが大切で、当たり前ですがこの段階で勝っていないと、何年もかけて開発した製品を世に出しても競合と勝負にならず、すぐにお蔵入りという悲惨な末路を迎えます。
次に絵に描いたモチである製品企画を実現するにはどうすればよいか、アイデアを練り、試作を繰り返します。ここからが本当の勝負です。性能・信頼性vsコストなど、一方を優先すれば他方が劣後するジレンマを乗り越え、全てを満足する解を見いださなければなりません。誰もが欲するそのような上手いアイデアがその辺に転がっている訳もなく、寝ても覚めても考え続けます。またこれなら完璧だと思ったアイデアも、いざ試作品を評価すると問題だらけと言うのも日常茶飯事です。
もう20年くらい前のことで時効だと思いますので小さい声で言いますが、平日夜は23時に帰れば早い方、遅いときは25時まで、大きな節目の前は土・日もフル出勤という生活を数年送りました。こうした苦しい時期をフラフラになりながら乗り越え、全ての面でこれなら大丈夫と確認が取れた後、ようやく製品の量産が始まり日の目を見ることになります。ただしこれで終わりではなく、製品を世に出して一般ユーザーの方々に使って頂く中で、思わぬ不具合が発生することもあり、これに備えておくことも重要な仕事です。
さて剣道の話に戻りますと、「打って勝つな、勝って打て」といつも先生方からご指導を頂きます。技を出す前に相手をよく観察し、相手の構えを攻め崩し、今しかないというところ(自分が勝った状態であるところ)を見極めて、練りに練った技を出すことだと理解しています。それでも相手のいることなので100%自分の思い通りに行くはずもなく、臨機応変に修正する柔軟性が必要で、また打った後も気を抜かず、相手の反撃に備える残心が求められます。
ここで前述した製品開発のプロセスと、剣道の技を出す過程を比べてみますと、非常に似通っているように思えます。どちらも準備段階がとても大切で、ここをしっかりやることが良い結果に繋がるということ、また事後も抜かりなく備えておくことが重要、という共通点があります。共通のコツなので、一方を掴めば他方にも、すぐに出来るかどうかは別として、考え方は横展開できるように思えます。
更に拡げて考えますと、「勝って打つ」以外にも、剣道に一生懸命取り組む中で、技を超えてその教えるところを体得できれば、将来どんな場面になっても助けてくれること間違いなしだと思います。また大人になって色々な場面で苦労して掴んだノウハウは、剣道にも必ず応用できると思います。これが剣道を学ぶことの実用的な側面の一つではないでしょうか。中学生の頃には気付けなかった剣道をやる意義が少し見えたような気がします。
余談になりますが、最近私は子供達と稽古をするとき、中段に構えたままじっと動きません。間合に入ったからと言っていきなり打ってくる子には、なぜ打ったのかと聞きます。
※写真は中学校の卒業アルバムから引用したものです。後列中央が私ですが、プライバシー保護の観点から名札は付けていません。